所長の公認心理師・臨床心理士としての歩み④:児童自立支援施設の6~10年目(施設入所中の非行・虞犯の子ども達と過ごした経験)

一時保護所に2年勤めた後、その次に私は非行行為や虞犯(犯罪をする恐れのある)の理由等で地域で住むことを辞めて、施設に入所して立ち直りを支援する必要がある子どもたちと関わる入所施設である「児童自立支援施設(旧教護院)」というところに勤務することになりました。

最初、内示(年度末に所属長から知らされる「あなたは来年度ここになります」という口頭言い渡しのようなもの)で「児童自立支援施設」に勤務が決まったとき、「自分にそんな難しいことができるのだろうか」と少し悩みました。そして、同時に「悔しい思いをした児童相談所に戻りたい。もう一度チャレンジしたら前よりうまくできるんじゃないか」という気持ちが沸いてきました。

それでも、自分に与えられた新たなチャレンジとして捉えると、それを与えてくれた職場に信頼されている面もあると感じ、有難い気持ちもありました。また、その職場は心理職が2名しかいなかったのですが、児童相談所での2年間一緒に過ごした私の上司の一人が勤務していることもあり、それもあって安心感もあり、気持ち新たに新しい職場に赴任したことを覚えています。

児童自立支援施設のことは、児童相談所時代は関係機関の一つだったので、子どもを入所させるときに子どもと一緒に行った経験もあり、何となく知っていましたが、実際毎日勤務するとなると、子どもの生活が分かり、とても知らないことばかりでした。私は子どもと生活する職員(泊りの職員)ではなく、入所している子どもの悩みを聞いたりするいわゆる「通いの職員」だったわけですが、それでも十分子どもたちの生活が今までよりよくわかりました。

少し解説しますと、子ども達は、男の子は丸刈り、女の子は髪を染めていたら黒髪にして、朝は規則正しく起き、ご飯を食べ、掃除を丁寧にし、規則正しい毎日を送ります。家庭的な雰囲気を目指した寮に住み込み、寮長先生と寮母さん(教母さん)と一緒に10人くらいの子ども達と過ごします。基本的に何かをやったら「ご飯食べました」「掃除しました」等と報告し、寮長先生や寮母さんから「はい」「ご苦労さん」と、丁寧に毎回返事をもらいながら過ごします。

日中は敷地内にある学校に行き、しっかり勉強します。今は学校の先生が教鞭を取っていますが、しばらく前までは寮長・寮母さんが教鞭を取っていて、私も見たことがあるのですが、なかなかしっかり教えるスキルを持っておられる方が多かったので、驚きました。そして、昼には公共作業といって草刈りがあり、広大な敷地内を草刈りを1~2時間します。また、施設内で男子は野球部と陸上部があり、女子はバレー部があり、そこで放課後は汗を流していました。

もちろん、非行などをしてきた子ども達ですから、時には何かが原因で子ども同士で揉めたり、寮長先生に反抗することがあります。それも起こったことを丁寧に寮長や寮母が関わることで、今まで家庭で起こっていた体験とは違う体験を子ども達がするということが印象的でした。きっと子どもたちにとっては、良い体験にも、そうでない体験にもなるかもしれませんが、家庭で起きた体験とはおそらく違ったものになっているのではないかと今でも思います。

そして、多くの子どもたちが、非行をするようなエネルギッシュなパワーを持った子どもたちですから、そのエネルギーが例えば野球や陸上に向かうと、なかなか面白いことになります。気合や根性みたいなエネルギーに代わり、なかなか野球も上手くなるし、駅伝などもすごいタイムを出すし、「そうか、この子たちはエネルギーを向ける先が間違っていたのだな」と感じることが多かったです。年に1回、ソフトボールの球技大会があり、私も参加するのですが、子ども達はとてもうまいので全然勝てませんでした。この「正当なルールのある試合で大人を打ち負かす体験」というのも、彼ら・彼女らにとって良かったのではないか…とも思います。

一方で、子どもたちの多くが複雑な家庭事情で入所しており、育ち直しの支援には限界があるという事実にも直面しました。それが一番の学びだと思っています。

子どもたちの多くは、様々な困難(虐待被害やひとり親、親不在、家族との不和など)によって傷ついた存在でもありました。ある意味では、非行行為を通じて、家庭から出ることができ、社会からの支援を受ける存在に移行したという言い方もできるかもしれません。そうやって社会が家庭では十分できない面をサポートすることができたら良いのですが、仮に児童自立支援施設で子どもがそれなりに成長して更生したとしても、多くが中学校3年生で卒業して施設を退所していきます。

施設は、決まった時間に起き、毎日が同じようなシンプルな毎日です。それは退屈な面もありますが、シンプルであるからこそ、気持ちを大きく乱されることなく、パターンがある程度ある毎日を過ごし、しかも、トラブルがあったら丁寧に寮長・寮母が関わってくれます。でも、社会はそうではありません。非行・犯罪に近い人が身近にいるかもしれないし、高校に行っても、あるいは中卒で仕事をしても、社会には自分をいらだたせる色んな人がいて、誰しもイライラすることもあるような面があると思います。

複雑な家庭の背景があり、複雑な心理的問題を抱えた彼ら・彼女らにとって、社会はとても厳しいものです。なので、高校に行っても辞める子どもたちも多いですし、中卒で仕事をしてもその後離職する話も聞きます。何かの際に寮長・寮母の元に卒業生が顔を出すことがあるので、一部は知ることができるのですが、連絡がない子どももあり、本当に厳しい世の中を生き抜いているのだなと思うことがあります。

この「複雑な心理的問題を抱える」と言う問題をどうにかしたいという気持ちは、
なごみのコンセプトの一つでもある

“相談しやすい環境作りを心掛けることで、「問題が複雑化する前に早めに相談する場」を確保してもらい、「こころとからだの健康を維持のサポートをする」のが私たちの一つの目標です。早めに問題に気づき、早期対応によって、「スピーディな対応」あるいは「より良い対応」を目指します。”

という考え方をより強固なものにしています。

お読みいただき、ありがとうございました。

高橋 暁彦